|
むかしむかしのおばさん、清少納言はその見事なおばさんぶりを『枕草子』に書き残した。現代のおばさんである私は、清少納言のような文才も教養もないが、今のおばさんだから見えてくること、できることを書いてみたい。 第一回は、趣味の観劇について。 5年ほど前から、芝居見物にはまっている。劇を観ることそのものも勿論楽しいのだが、実はいくつか別の楽しみもある。そのひとつが、観客観察。劇場は火花散る女の戦いの場でもあるのだ。個性的な格好をした人が多く見られるのだが、なかでも「これは!」という人を選んでは密かに「今日の一番」と名づけている。 先月行った芝居は大衆演劇に近かったせいか、中高年が多かった。その日の「一番」は、黒いシースルーのブラウスの下の黒い下着(決してキャミソールとかではない)がくっきり見えている、身の丈150くらい、ぷっちり体型の50代後半とおぼしき女性。多分劇場の外では、上着を着るのだろうが、見事なまでの堂々とした透け具合に、ダントツの一番を捧げた。 一方、若い子も負けてはいない。劇場の真ん中を横に走る通路に面した座席に、足の付け根から5センチほどしかないボトムスを身に着けた20歳くらいの娘さんを見かけたときには驚いた。生足がほとんど丸ごと出ているのだ。ちなみにこの日は、若いイケメン多数出演の劇団だった。 劇場は冷房が効いていることが多く、その日も足元の冷えが結構厳しかったので、ひざ掛けをしている人が多かったが、その子は決して足を覆わなかった。さすがにひざは閉じていたが、彼女は休憩時間も立ち上がらず、終演後もアンケートをずっと書いていたので、ついにその立ち姿を見ることができなかった。ワカメちゃんルックだったのか、女性マラソン選手のようなボトムスだったのか、謎が残った。 アニメ関係の芝居でなくても、コスプレ系も良く見かける。鹿鳴館スタイルや、メイクまでばっちり決めた宝塚のベルばらのアンドレ風とか、どこで着替えたのだろうと不思議に思うようなものもある。3年ほど前に見かけた、昔の山本リンダ風(真紅のフリフリブラウスに、黒いパンタロン、そしてへそ出し)の小柄な30代女性は、後日、別の会場で全身真っ赤なミニ・ワンピース姿を目撃している。 財力派なら着物スタイル。お正月ではないにもかかわらず、振袖に金襴の帯を結び、髪を高々とアップにした20代後半のすらりとした長身の女性を見かけたときには、「(髪で舞台が見えなくなるので)どうかあの人の後ろの席ではありませんように・・・。」と祈ってしまった。着物姿は若い人より財力と体型の問題で熟年女性が多いようだが、今のところ「今日の一番」になったのは、この振袖嬢だけである。 なぜ、観客の女性達が、人より目立つために必死の努力をしているかと言うと、それは贔屓の役者へのアピールに他ならないのだろう。いかに印象付けるかの争いなのだ。お色気で、コスプレで、財力で、とにかく自分という存在を覚えて欲しい。その気持ちは、痛いほどわかる。でもそれは小心者の見本のような自分にはとうていできないことである。 この5年ずっと応援してきたある劇団のメンバーが本を出した。ロビーで販売していたので購入し、さてサインというときに、「お名前は?」と言われたときには、へなへなと力が抜けた。このとき一瞬だけだが、最近ドラえもんに似てきたと言われる己の姿を忘れて、「この次はミニ・スカートに網タイツで来ようか。」と真剣に考えた。いかに自分が印象の薄い人間なのか思い知らされたのだ。 憧れの役者さんに自分の存在を知って欲しい。でもライバルは多い。その中で目立つためには涙ぐましい努力がいる。よほど強い印象を与えなければ認識してもらえない。しかし、良い意味で覚えてもらえるのは、もっと難しいのである。 |
| トップへ | 後記事(2007/05/25)>> |
| トップへ | 後記事(2007/05/25)>> |